沈む朝日~9条記事を組織的に捏造~

<CASE 1>9条論議の盲点を突き世論調査データを水増し

ジャーナリスト 木佐芳男(WiLL2019年7月号寄稿から)

日本国憲法は2019年5月3日、施行72年を迎えた。朝日新聞はこの日、一面に憲法をめぐる世論調査の結果を掲載した。そこには〈9条「変えぬ方がよい」64%〉との見出しがあった。果たして、この数字は信頼に足るものだろうか。

読売新聞もこの日、世論調査データを記事にしている。「憲法を改正するほうがよいか」を尋ね、「改正しないほうがよい」が46%だったとしている。9条に絞っていないため朝日新聞とそのまま比較はできないが、憲法改正の焦点が9条にある現実を考慮すると、朝日の数字は不自然に高い印象がある。

毎日新聞は、2013年から2017年まで、9条について世論調査している。「9条を改正すべきだとは思わない」と答えた人は、この間、朝日新聞より8~17ポイントも少なかった。同じ9条に絞った質問でこれだけ差が開くのはなぜか(図表:憲法9条についての世論調査データ比較を参照)。

筆者は、読売新聞に勤めているとき世論調査部にいたことがある。日米、日米欧などの国際世論調査を主に担当した。国内テーマを絞る会議やデータ分析にも加わり、世論調査のノウハウと裏表を知った。

そこで、今年をふくむ過去七年の主要メディアによる憲法をテーマとした世論調査を比較分析した。その結果、朝日新聞が毎年、「9条改正に反対」の数字を意図的に水増しする調査方法をとってきたことがわかった。大きな数字をあえて独り歩きさせ、憲法改正の機運に冷水をかける狙いだと思われる。

 

9条論議の盲点

筆者が朝日新聞の世論調査に不信感を抱いたきっかけは、2016年の憲法記念日に掲載された記事だった。一面トップに〈9条 改正反対68%〉と見出しがあり、この数字は政界などに影響を与えるだろうなと思った。この日の朝日新聞紙面は護憲論一色の観があり、その中核に世論調査データがすえられていた。

毎日新聞が同じ日に発表した世論調査でも、憲法9条を改正すべきかどうかを聞いており、「改正すべきだと思わない」とする人が52%だった。おなじ意味のことを尋ねているのに朝日より16ポイントも少なかった。

後日、東京のある現役ベテラン政治記者と話しているとき、朝日の68%という数字を話題にすると、その記者はまったく疑念を抱いていなかった。永田町でもまったく問題にせず、その数字を鵜呑みにしていたのだろう。

朝日新聞の「質問と回答」欄をみると、郵送した質問書に、説明として9条の1項(戦争放棄)と2項(戦力の不保持、交戦権の否認)の全文を掲げたうえで質問している。朝日が異様に高いデータを得た理由は、何よりも、この9条全文を載せた説明文にあるのではないかと考えられた。

9条を議論する際に留意すべき重要なことがある。

「平和主義の中核である戦争放棄を定めた〈9条1項の理念〉を改変しようとする勢力は、事実上、わが国には存在しない」という現実だ。

たとえば、自民党が2012年に発表した憲法改正草案をみても、自衛隊を持つ現実に合わせるべく、あくまで戦力の不保持と交戦権の否認を定めた2項の改正が想定されている。わが国で1項の戦争放棄を重視しない人はごく一部で、組織化されているわけでもなく、とても政治勢力とは言えない。

駒澤大学名誉教授の西修によれば、戦争放棄が自衛戦争をも放棄することを意味しない点で国際的な合意ができている 。また、個別的自衛権と集団的自衛権について、国連憲章51条には、次のように明確に定められている。

「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和および安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的または集団的自衛の固有の権利を害するものではない」

〈9条1項の理念〉とは、「自衛の場合をのぞき、国際紛争を解決するための戦争を放棄すること」と定義できる。

自民党草案では、現在の1項の文言をほぼそのまま踏襲し、そのあとに「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」と付記している。

しかし、朝日新聞をはじめとする護憲派は、あたかも改憲派が9条全体を「改悪」し平和主義からの決別を狙っているかのような主張をしてきた。言わば憲法論議の盲点を突いたプロパガンダだ。

読売新聞は今年、1項と2項それぞれについて聞いている。1項を「改正する必要はない」とする人が83%、2項を「改正する必要はない」とする人は51%で、1項改正への反対が圧倒的に多かった。

朝日新聞のように1項の条文をも掲げて問えば、「9条改正の動きは平和主義からの逸脱だ」と回答者が誤解しやすい。改正に反対する声が多めに出るのは当然であり、同時に、政治的には無意味な数字と言える。

朝日新聞と同じく護憲派メディアと目される共同通信は、2016年10月28日、憲法公布70年を控え郵送方式で実施した世論調査の結果をまとめた。そこでは、「9条を改正する必要はないと思う」とする人が49%だった。

毎日新聞のデータと照らし合わせれば、漠然と9条改正に反対している国民は50%程度にとどまるとみられる。ここで想定されている9条とは、改正するかしないか議論の対象となっているもののことであり、実際には1項をほぼ除いたものと考えるべきだろう。事実、今年の読売新聞の調査で2項を「改正する必要がない」とした人は51%だった。

 

バイアス

世論調査では「バイアス」という言葉がよく使われる。本来は、織物の布目に対して斜めに裁った布地のことを言う。転じて、社会調査で回答に「偏り」を生じさせる要因を意味する。朝日新聞は、憲法をテーマとする調査で強くバイアスをかけたことになる。

朝日新聞は、2013年に調査方法を電話から郵送に変更し、今年に至るまで9条全文を掲げて質問している。その結果、2014年から、「9条を変えない方がよい」という声が6割台で高止まりしている。

 

論外の調査法

設問を作成する際には、現実の状況がどうなのか、かなり厳密に調べたうえで行う。朝日新聞の世論調査センターで調査の企画・実施・分析にたずさわった経歴を持つ吉田貴文によると、センター全体が参加する「質問部会」で膨大な時間をかけて質問文を吟味するという。つまり、朝日新聞は「平和主義の中核である戦争放棄を定めた〈9条1項の理念〉を改変しようとする勢力は、事実上、わが国には存在しない」という現実も承知のうえで設問を作ったとみられる。結果として、と言うより意図的に、「9条改正に反対」の数字が大幅に水増しされることになった。

これは、世論調査のルール違反である以前に統計の専門家も想定しない論外の行為だ。

朝日新聞は、2012年以前にも「憲法は9条で「戦争を放棄し、戦力を持たない」と定めています」と1項、2項の骨子を並べて前置きし、9条を変えない方がよいか云々と電話で質問していた。

一方、毎日新聞は、例年、電話で漠然と「憲法9条を改正すべきだと思いますか、思いませんか」と聞いている。その結果、「思わない」とする人が朝日新聞より常にかなり少ない。

朝日、毎日両紙とも、2013年から2014年にかけて2桁もポイントが跳ね上がっている。これについて毎日新聞は、「安倍晋三首相が憲法解釈変更で集団的自衛権行使を認めようとしていることも影響したとみられる」としている。朝日新聞は、直接、明確な解説はしていない。

2015年から2016年に朝日新聞で5ポイント増えているのは、朝日新聞をはじめとする左派メディアが安倍政権の安保関連法案について「戦争法案」などと煽り、国内に軽い集団ヒステリーが起きたことを反映しているのかもしれない。だが、なぜかこの間、毎日新聞データではむしろ下がっている。

世論調査では普通、誤差をふくんだ結果が確かであろう確率を95%に設定している。回答者が1000人の場合の誤差はプラスマイナス3.1%となり、たとえば内閣支持率が50%だとしたら、実際は約47%から約53%である確率が95%となる。ちなみに、内閣支持率が30%を切ると危険水域、20%を切ると退陣と言われる。

誤差をさらに減らすには回答者の数を増やさなければならない。3000人にすると誤差はプラスマイナス1.8%まで縮まるが、その分、コストや手間が大幅に増える。

朝日新聞は、先述のように2013年以降は電話から郵送に切り替えている。紙面にはなぜ、かつておこなっていた郵送法をふたたび採用したかという説明はないが、固定電話をもたない国民が増えたためとみられる。記事によれば、約2100人を対象とし回答率は68%程度だ。

郵送法のメリットとして、長文でたくさんの質問にじっくり時間をかけて回答してもらえることがあげられる。ただ、回答者本人だけの意思で答え同居人などの意見は入っていないか、むずかしい質問は飛ばすか適当に答えていないか、という問題は残る。

 

調査方法に差なし

毎日新聞は、「電話により約1600人を対象とし回答率は60%程度」と記事にあり、朝日新聞とは郵送法か電話法かのちがいがある。だが、いま本稿で問題にしているのは、朝日新聞が9条の1項もあげて回答を求めているのに対し、毎日新聞は漠然と9条について聞いていることの差であり、調査方法のちがいは大きな問題とはならないだろう。

ある設問で回答選択肢の数がちがうと、同様の質問でも結果にかなりの差が出ることが知られている。だが、両紙はいずれも二者択一式でおこなっている。一般有権者にとって憲法はむずかしいテーマであり、「わからない・答えない」という選択肢も設けるべきだ。そうすれば、調査結果はかなりちがい、68%などという数字にはならないはずだ。

また、一般的に言って、調査の主体(この場合は朝日新聞と毎日新聞)により回答に偏りが生じる可能性もある。「○○新聞はこの問題に関しては○○だから」などと回答者が忖度そんたくして答えるケースだ。自民党政権の支持率が、常に朝日新聞より読売新聞のほうが高めになる例などがよく知られている。これもバイアスの一種とされる。しかし、こと憲法9条をめぐり朝日新聞と毎日新聞の論調にほぼ差はなく、その点での偏りもほとんどないと考えられる。

 

禁じ手のキャリーオーバー

朝日新聞は、2013年、次のような世論調査をおこなったこともある。

◆憲法9条の条文が多少現実とは違っていても日本のとるべき姿勢として変えないでおく方がよい、という意見があります。その通りだと思いますか。

その通りだ 59 そうは思わない 35

「――という意見があります。その通りだと思いますか」と聞かれ、あえて「そうは思わない」と答える人は、多くの場合、予備知識とはっきりした意見の持ち主だろう。このような設問は世論調査として不適格で、「露骨な誘導尋問」と批判されてもしかたがない。

また、前の質問が後の質問への回答に影響をおよぼす「キャリーオーバー」も、世論調査では禁じ手とされている。

朝日新聞の2016年世論調査の「質問と回答」をみると、全40にわたる設問のうち憲法に関するものが15ある。

◆今後の参議院選挙で一番大きな争点は、憲法だと思いますか。ほかに重要な問題があると思いますか。

一番大きな争点は憲法だ    32  ほかに重要な問題がある    60

◆憲法を変えるには、衆議院と参議院でそれぞれ3分の2以上の議員が賛成して提案し国民投票で過半数が賛成することが必要です。今度の参議院選挙の結果、憲法改正に賛成する政党の議員が参議院全体で3分の2以上占めたほうがよいと思いますか。それとも、占めないほうがよいと思いますか。

占めたほうがよい       27  占めないほうがよい      51

こういう質問のあとに、憲法9条の全文を掲げて、変えるほうがよいか、変えないほうがよいかを聞いている。「憲法よりほかに重要な問題がある」「参議院全体で3分の2以上を占めないほうがよい」と多くの回答者が答えることを見越して「9条改正反対」に持っていったのではないか。まさに、禁じ手のキャリーオーバー効果を使って回答を操作したことになる。

ちなみに、朝日新聞はかつて、こんな調査データを明らかにしている。

◆憲法全体をみて、いまの憲法を改正する必要があると思いますか、必要はないと思いますか。

改正する必要がある 58% 改正する必要はない 27% (2007年)
改正する必要がある 56% 改正する必要はない 31% (2008年)

当時は、漠然と憲法改正を必要だと考える声が多数派だったのだ。これと近年のデータを比べると、世論が変わった以上に朝日新聞の「質問の仕方」が変わった影響が大きいと言えるのではないか。

NHK放送文化研究所世論調査部副部長の岩本裕は、著書でこう述べている。「問題は、質問を作る側の意識です。自分の望む方向に答えを誘導することが決してないよう、調査を実施する人間の矜持きょうじが問われているのです」

 

バンドワゴン効果

世論調査実務者の間でよく知られているのが「バンドワゴン効果」という言葉だ。世論調査の結果を発表したことにより何らかの影響が出ることを言う。バンドワゴンというのは、サーカスなどのパレードの先頭の楽隊車のことだ。たとえば、選挙である候補が優勢だという予測が出たとき、有権者の多くが「バンドワゴンについて行く」、つまり勝算のありそうな候補者を支持し「勝ち馬に乗る」ことだ。

この効果は選挙予測にかぎらず、政治的なムード一般にも当てはまる。朝日新聞が、例えば一面トップで〈9条 改正反対68%〉という見出しを打ったとき、それを見た読者のなかには「ああ、これだけ多くの人が反対しているのだな」との印象を持ち、自分もその流れに乗ろうとするケースがたくさんあっただろう。

特に、日本人は自己主張が控えめで付和雷同(ふわらいどう)の傾向が強い国民性であり、このバンドワゴン効果が大きいとされる。

また、朝日新聞は長らく、わが国の代表的なクオリティペーパーとされてきたため、メディア界内部での影響力が大きかった。ある種の事大主義で、NHKでもまず朝日新聞を読んでそれと同じ論調で番組を作ることがよくあった、と聞いたことがある。他の多くの放送局や新聞でも同様だったのではないか。先の現役ベテラン政治記者の例からもうかがえるように、バンドワゴン効果が他メディアに影響を与えた可能性は高い。

さらに近年の〈9条改正反対○%〉という高い数字は、政界の憲法論議にも大きな影響を与えているのではないか。2016年夏の参院選の結果、衆参両院で憲法改正を容認する勢力が3分の2を確保してからも、自民党の一部や公明党などは9条に関してタブー視するような姿勢をみせてきた。

世論調査は統計学を基盤とするもので、中立的、科学的に実施しなければならない。だが、現実のメディアの世界では、自社の論調(政治路線)に有利に働くようなデータを得ようとする傾向がある。なかでも朝日新聞は、安保関連法案騒ぎのときもそうだったが、煽り体質が特に目立つ。

2016年の米大統領選で露呈したように、世論調査には致命的な欠陥があり、鵜呑みにするのはメディアリテラシー(伝えられた情報を評価・識別する能力)の観点から問題が大きい。特に、政治家やジャーナリストは、世論調査主体の隠す意図を読み、数字に踊らされないよう肝に銘ずるべきだろう。

(文中敬称略)

 

本稿の参考文献

『世界の憲法を知ろう』西修著 海竜社 2016年
『世論調査とは何だろうか』岩本裕著 岩波新書 2015年
『世論調査と政治 数字はどこまで信用できるのか』吉田貴文著 講談社+α文庫 2008年