沈む朝日(ダイジェスト版)

<CASE 3>9条記事を組織的に捏造・隠蔽

~『「反日」という病 GHQ・メディアによる日本人洗脳マインド・コントロールを解く』第Ⅴ章1から~

 

1面の不審な記事

「アメリカ9条の会(Article 9 society USA)」の創設者チャールズ・M・オーバビーが、2010年、さる日本人を介して、筆者にちょっと驚くべきメッセージと質問を伝えてきた。オーバビーの活動に影響され、日本に約8000もの「九条の会」が生まれている。その護憲団体ネットワーク会員らにとって、彼はカリスマのような存在だという。

オーバビーの用件は、1999年5月16日までさかのぼり、朝日新聞がその日に掲載した記事は虚偽だと告発するものだった。やはり朝日は組織として記事を捏造・隠蔽していたのだ、と筆者はある種の感慨にちょっとひたった。

この捏造記事は、護憲派を中心とする読者や政界、メディア界に影響を与え、国会で取り上げられたこともある。しかも、憲法をめぐるバトルがヒートアップする現在、問題はきわめて今日的だ。

朝日朝刊は、次のような記事を1面に載せていた。

〈【ハーグ(オランダ)15日=山本敦子、深津弘、斎賀孝治】非政府組織(NGO)の呼びかけで、百カ国以上の約一万人が参加して開かれていた「ハーグ平和市民会議」は最終日の十五日、「公正な国際秩序のための基本十原則」を行動目標として設け、第一項に「日本の憲法九条を見習い、各国議会は自国政府に戦争をさせないための決議をすべきだ」との文言を盛り込んだ。日本国憲法の理念が世界の平和運動の共通の旗印として初めて前面に掲げられた。

会議はこの基本十原則を含む「二十一世紀の平和と正義のための課題」(ハーグ・アジェンダ)を採択、アナン国連事務総長に手渡し、四日間の日程を終えた。アジェンダは十八日からの政府間会議と十一月の国連総会に提出される。〉(以下略)

ヨーロッパはそのころ、NATOが「人道介入」としてバルカン半島のコソボを空爆しているさなかだった。「人道的介入」と呼ばれることもある。ハーグの会議が平和団体主催とはいえ、戦争や武力行使、戦力を放棄したいわゆる絶対平和主義の9条を、この状況で採択文書に盛り込んだりするだろうか。筆者は疑問を感じ、結果として2年余りかけ入念な取材をした。

国連の英文サイトをチェックすると、ハーグ会議の採択文書はあったが、記事にある「十原則」は載っていなかった。

国内で入手した「十原則」の日英テキストにはこうあった。

1 各国議会は、日本の9条のように、自国の政府が戦争に走るのを禁止する決議を採択すべきだ(Every Parliament should adopt a resolution prohibiting their government from going to war, like the Japanese article number nine)

筆者の問い合わせに、ハーグ平和会議の最高責任者は、「基本十原則」は「参加者の気持ちをまとめた非公式の要約」だなどと詳細にわたって確認した。筆者は、「十原則」は採択文書ではないとするその英文メールをいまも証拠として某所に保管している。ハーグの会議事務局から郵送してもらった採択文書全文(英語)にも「十原則」はなく、これも証拠となる。そして、国連サイトに「十原則」が存在しない事実が最大の証拠だ。

しかも、採択文書では「人道介入のため国連常備軍を創設する」とされ、絶対平和主義とはあいれないが、朝日の記事はそれにふれていない。

つまり、完全な虚報だった。

いきさつを調べると、朝日をオピニオンリーダーとする護憲派は、「9条の世界化」を目指してハーグに約400人の大代表団を送り込んだ。だが、その主張は通らず、やむなく虚偽の記事を載せたようだった。「世界化」を最初に主張したのは朝日社説だが、問題の記事が載った日の社説では「十原則」について一切触れなかった。1面の記事が虚偽だと知っていたからだろう。

この会議は共同通信と北海道新聞も現地取材していた。現地の記者らが非公式の要約にすぎない「十原則」を採択文書と誤解した可能性は、ふつうありえないがゼロとは言えない。朝日がその後もくり返しハーグ会議の虚偽の事実を記事化する一方、共同、道新は続報を掲載していない。筆者が取材したかぎり、朝日が主導し憲法学者ら代表団幹部と結託して虚偽の記事を掲載したものと思われる。

ただ、代表団幹部のある憲法学者は、ハーグ会議の結果を自分の研究室のウェブサイトに掲載しながら「十原則」にはふれておらず、虚報に反対の立場だったことがうかがえる。

2000年11月の衆議院憲法調査会(当時)では、日本共産党の議員がこの記事にもとづいて質問した。

筆者は、自分が主宰するウェブマガジンで2001年6月26日、「捏造ねつぞう」とはせず「朝日が9条で虚報」としてスクープした。それを、週刊文春同年7月5日号が「たった一人でスクープした」と3ページにわたって記事化した。

その掲載後、筆者は、関係した朝日記者と代表団幹部の計数人に電話したが、全員そろって「ノーコメント」とし、ある学者は「ノーコメントと言ったことも書くな」と語気を荒らげた。一方で、だれも「スクープの内容はまちがっている」と反論しなかった。

 

やはり捏造=苦言は無視

そして約10年が経ち、「アメリカ9条の会」創設者オーバビーの話となる。彼はハーグ平和会議にずっと参加していて、日本人記者、代表団幹部とも親しく接触していた。9条をめぐりそれ以上の権威はないオーバビーが「(十原則が)採択された事実はない」「護憲派が嘘を喧伝している」と断言している、と仲介者は言う。筆者のくだんのスクープを誰かが英文に翻訳し記事化したのを、オーバビーは偶然にも読んで、長い年月のあと、ある事情からスクープしたいきさつなどを知ろうと筆者に接触してきたのだった。

オーバビーのメッセージで、取材記者らのミスによる誤報の線は完全に消え、「記事の捏造」という言葉こそふさわしいと確認できた。仲介者によると、オーバビーは、朝日や代表団幹部の憲法学者らにこの件で苦言を呈したものの、無視されたらしい。

 

護憲運動は破綻

ハーグ平和会議で護憲派幹部らは、「9条の世界化」を狙い猛烈なロビー活動をしたが、ヨーロッパで人道介入という名の武力行使が行われている現実から、相手にされなかった。しかし、世界化に失敗すれば、日本の護憲運動そのものが国際社会や国際平和運動体から否定されたことになり、その致命的な破綻はたんを明るみには出せない。

正式な採択文書に入れさせるのは無理とみて、最初から記事を捏造する意図で討議メモ「十原則」の執筆者に9条の一文を入れさせたのか。あるいは、たまたまあった討議メモを、苦肉の策として悪用し記事を捏造したのか。前者の可能性のほうが高いと筆者はみる。採択されなかった討議内容が第1項に書かれているのは不自然で、しかも、「日本の9条のように」とあるだけで、「憲法(constitution)」という文言さえない杜撰ずさんなものだ。

この朝日の記事捏造・隠蔽は、社長直属で社説を担当する論説委員室などもからんでいたことから、編集局幹部の独断というより、社のトップが決断した可能性が高い。当時、ハーグの代表団幹部と朝日の東京本社では、激しいやりとりがあったのだろう。捏造・隠蔽にかかわった幹部は、少なくとも数十人と推測される。

記者個人が暴走したのではなく、組織として捏造した。これだけ明白で悪質なケースは、日本の一般紙・通信社メディアの歴史でも聞いたことがない。こんなことが許されるだろうか。〈自由の濫用〉を禁じた憲法12条に違反するジャーナリズムへの冒涜ぼうとくだ。メディア報道のあり方は、21条の〈表現の自由〉のもと、法律で規定されてはおらず法的責任はない。その分、捏造事件の時効もなく、朝日新聞には現在でも道義的責任と説明責任がある。

「9条が世界化された」と思い込んでいる護憲派の政治家や市民はいまでも少なくなく、この捏造事件は現在の憲法論議にふかくかかわってくる。

オーバビーが筆者に接触したのは、万にひとつの偶然からだった。(この捏造・隠蔽事件の詳報については[あとがき]を参照)

ハーグ平和会議が容認した「人道介入」は、10年後、米大統領オバマがノーベル平和賞受賞演説で語ったことそのものだった(本章の[4 戦争を絶対悪としない思想]参照)。わが国の護憲運動は、世界からまったく認められていない。