あとがき
この本を認めるか認めないかは、パクチーが好きか嫌いかという話と似たようなものだと思います。
そして、「いまひとつ頭に入らない部分がある」というかたは、マインド・コントロールされている度合い、本書で言うMC度がやや高いかもしれません。理解しようとする脳の認知プロセスに、無意識がブレーキをかけてしまうからです。
その場合、たとえば、ジェームズ・ディーン主演の映画『エデンの東』が手がかりになるのではないでしょうか。あの名作は、常に〈善き人〉であろうとする生き方の自己欺瞞と破綻を描いています。
本書は、『〈戦争責任〉とは何か 清算されなかったドイツの過去』(中公新書)の姉妹編です。前書では、ドイツがふたつの国家的トリックを使い、ヒトラー時代の過去を清算したかのように自らと国際社会を欺いたことを論証しました。
その作品を好意的に評価してくれた北海道新聞書評の末尾に、こうありました。「著者の目から見るとき、日本の『戦争責任』論はいかなる『トリック』、すなわち歴史拘束性を持っているとされるのか、さらに聞いてみたい」。おなじように「では、日本はどうなのか」という声が、たくさん届きました。
でも、そのときは「日本の戦後論は語りつくされているだろうから、自分の力ではとても書けない」と思ったのが正直なところです。
ただ、本書第Ⅴ章で書いた朝日新聞による9条記事の組織的捏造・隠蔽のことがずっと頭から離れず、それが日本編の戦後トリックを書く動機のひとつとなりました。新聞社が組織として記事を捏造する背景には心の病理があるにちがいないし、その行為はジャーナリズムへの冒涜で許せない、と怒りに似たものをおぼえました。一般にはまだ知られていないこの事件の詳報は、ウェブサイト【RAB☆K】http://rab-k.jpの【0円ブックレット】に掲載してあります。ある種のノンフィクション・ミステリーとしてお読みください。PDFファイルをダウンロード、印刷できます。
姉妹編ふたつの作品を書くために、日本、ドイツ、ポーランド、チェコの計約40人のかたにインタヴューさせていただきました。特に、この日本編を執筆するにあたって、岸田秀、春日武彦両先生にはとても興味深いお話をうかがわせてもらったうえ、原稿のチェックまでお引き受けいただきました。
ベルリン在住の取材助手アネッテ・カイザー嬢(Frau Annette Kaiser)は、サッカーで言えば快足FWで、ラストパスを通すと猛ダッシュして貴重な情報をゲットする決定力がありました。ワルシャワで知り合ったポーランド人青年は、オフの日にわざわざ図書館や歴史的建造物などへ足を運び、価値ある情報をメールで伝えてくれました。
わが国の文化や情報が東京に一極集中するなか、いまは地方に住んでいる身であり、内外の情報を入手するツールとしてインターネットの威力をあらためて痛感しました。
本作の構想にざっと20年をかけ、本格的な取材と執筆には出雲へUターンしてから着手しました。この4年余りが長かったのか短かったのか、父を看取り母を看取り、この2月には愛兎も看取りました。
パクチーはデトックス効果があり、本書は脱マインド・コントロール効果があります。
幻冬舎の見城徹社長には出版を即断していただき、小木田順子部長には原稿について的確な助言をもらいました。ジャーナリスト櫻井よしこ氏は、ご多忙のなか解説を書いて下さいました。
いつも支えてくれている妻子をふくめ、直接間接にかかわっていただいたすべてのかたに感謝します。
平成三十年 春
出雲にて
木佐 芳男