諸行無常の響きなし
地球つれづれ草紙 | 2022年3月21日
高松塚古墳の壁画が発見されてから、きょう3月21日で丸50年という。各メディアが伝えている。
奈良県明日香村での発見を機に、古代史ブームが沸騰した。発見の立役者は、関西大学の網干善教助教授(当時)だった。
それからずっとのち、東京に住んでいるころ明日香村を訪れ、K余さんとサイクリングして高松塚古墳にも行った。たしかレプリカの壁画が展示されていた。網干先生はすっかり有名人になっていた。
ニューデリーへ赴任すると、その先生が、インド北部にある祇園精舎の跡地で発掘作業をしているという。面白そうと飛行機、タクシーを乗り継ぎくたくたになって現地へたどり着いた。作業着に長靴姿の先生は歓迎してくれた。
「実際に掘ってみると、祇園精舎の上に何世代もの仏教遺跡が重なっていて、精舎まではたどりつけそうにないです」
すでに出土した精舎より新しい時代の仏像の写真を撮らせてもらった。精舎訪問の記事は、後日、新聞の文化欄に載った。
現場を離れる前、先生にひとつ質問をした。「祇園精舎に鐘はあったんですか?」。先生はあっさり答えた。「鐘が発明されたのはずっと後世で、そんなのありませんよ」
有名な『平家物語』の冒頭「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり〜」は創作だった。