RAB☆Kブログ

エデンの東で


こんなケイトもありかぁ、と思って観ていた。日テレ系の水曜ドラマ『知らなくていいコト』だ。吉高由里子さんが「週刊イースト」のエース記者ケイトとして活躍する。
 
まず、週刊誌の取材方法が興味深かった。ぼくが経験した新聞記者とはかなりちがう。ある週刊誌のコメンテーターをしたり編集者の個人的アドバイザーをしたりしていたことはあるが、週刊誌のリアルな取材法は断片的な知識しかなかった。
 
それ以上に興味を惹かれたのが、ケイトの父親が文豪ジョン・スタインベックの研究者であり、その妻は学生時代、彼の小説『エデンの東』を卒論のテーマとしていた、という設定だ。
 
夭折の天才俳優ジェームズ・ディーン主演の映画『エデンの東』(1955年)を観た人は覚えているかもしれないが、ケイトは物語の影の主役だ。吉高さん演じるケイトは、亡き母親の日記をみて、その作品の登場人物から自分が名づけられたことを知る。
 
ぼくはちょうど2年前、ハヤカワ文庫の細かい活字の原作全4巻を読破した。タイトルは、旧約聖書にある楽園エデンから追放されたアダムとイブその末裔の物語から来ている。映画は第4巻につづられる物語に限定されているが、原作小説は大河のような長編だ。
 
20世紀を迎えるころ以降のアメリカの片田舎が舞台となる。善良な農場経営者アダムが結婚したのは、毒婦の性格を内に秘めたケイトだった。気性の激しいケイトは、あることから銃でアダムを撃ち重傷を負わせ失踪する。その長男とディーン演じる次男の確執が映画の筋となる。
 
テーマはいくつかありそれらが重層的に不協和音を奏でる。アダムと長男は常に善人であろうとする。次男はやさぐれたところがあり、その青年像をディーンが好演しあの名画が生まれた。
 
原作も映画も、ある意味では善悪二元論のキリスト教的世界観を批判し、善が破綻する様を描いている。その点で、いかがわしい売春宿兼酒場を経営している毒婦ケイトの存在が光る。
 
一方、『知らなくていいコト』のケイトの父は、無差別殺人者として罪に問われる。実は、幼児だったころのケイトの兄の無邪気な行為が毒殺事件になってしまう。その兄を父がかばい罪を代わりに背負ったことが、ドラマの末尾で明らかになる。
 
週刊誌記者として政治家や芸能人のスキャンダルを追いかけるケイト自身が、殺人者の娘として世間から糾弾される。妻子あるカメラマンを愛しながら、あえて結婚は望まないことを相手に告げる。原作のケイトとはまったくちがい毒婦ではないが、名脚本家・大石静さんが絞り出した「21世紀日本のケイト」だった。
 
『知らなくていいコト』に救いがあるかどうかは、人による受け止め方しだいだろう。映画を青春時代からくり返し観て、原作も熟読したぼくには、ずっしり重いドラマだった。実はぼくたちもエデンの東(イースト・オブ・エデン)に生きているのだ、と。

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