RAB☆Kブログ

トイレの神さまはどこに


 

 まだ30歳前、東京の有線放送英語版のDJをしているオーストラリア人青年と友だちになった。「スタジオへ遊びに来ない?」と誘われ、本番中に行ってみた。英語ニュースは共同通信英語配信の原稿を読み、音楽はリクエストの曲を流すだけでなく、自分の好みで選ぶ。ディレクターなどスタッフはおらず、ひとりで勝手に放送している。

 「何か聴きたいミュージックある?」「じゃ、サーモン&ガーファンクルを」。自分の選んだ曲が目の前から、有線放送に乗って伝わっていく。とても新鮮な感覚だ。

 その青年は日本語がほとんどできないのに、クロールの選手が泳ぐように東京で巧みに生きている。秘訣を聞くと、一冊の薄い本をバッグから取り出した。

 『サバイバル日本語』

 「これ何?」「まあ、いいから開いてごらんよ」

 ローマ字で例文が書かれ、英語で意味が書いてある。一番上の文章はこうだった。

 「BENJO WA DOKODESUKA?」(Where is a bathroom?)  

 「これがサバイバルするための日本語の最重要会話だよ」

 ぼくは思わず笑ったが、たしかにこれは大切なことだ。言葉も通じず街の仕組みも知らない異国では、トイレを確保するほど重要なことは他にない。パスポートや現金を取られないようにし、身の安全を保つのはその次のことだ。

 たとえば、日本人であるぼくたちが東京をぶらついていて、急にお腹が痛くなったとする。トイレをどうやって探すか。

 ダウンタウンなら、たいていパチンコ店がある。いい台を探すふりをして奥のほうへ入っていき、自然な感じでトイレに入る。東京にもあちこちに公衆便所があるが、ちょっと恥ずかしい思いをして場所を聞くより、パチンコ店のほうが早い。

 ある程度きちんとした服装をしているなら、シティホテルもお勧めだ。ゴージャスな気分でBGMを聴きながら落ち着いてできる。いずれもタダだ。

 東京へ来てまもない外国人には、パチンコ店へ入るという裏ワザはまず思いつかない。だから「便所はどこですか?」という一文が、日本でサバイバルするための第1章となるのだ。


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